だいたい日刊 覇権村

実益のないことしか書かない

映画『ダンケルク』の不気味さ

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突然ですが、みなさんに問題。

上は大火事、下は洪水

これなーんだ?

みんなもうわかったよね。

そう、答えは重油まみれで海に

放り出されて溺れながら、

炎に包まれるダンケルク撤退中のイギリス兵だ。

というわけで今日は

映画『ダンケルク』のお話。

この映画は、他のどの戦争映画とも違う

とても不気味な映画だった。

これがすごく良かった。

内容についてかなり踏み込むので、

ネタバレが気になる方は、

今すぐ故国に引き返した方がいい。

 

さて、二次大戦中の戦争映画というと

どんなものを思い浮かべるだろうか?

たぶん、悪いナチス

正義の連合国がやっつける!

という水戸黄門ばりの

勧善懲悪ストーリーではないだろうか。

だが、この映画は全く違っている。

連合国が一番快進撃の頃のドイツに

ひたすらボッコボコにされる。

非常に珍しい映画だ。

 

また、この映画では様々な

新しい試みがなされている。

たとえば時間軸のずれだ。

陸ステージは1週間。

海ステージ1日。

空ステージは1時間。

全く時間の流れが違うのに、

同時並行的にうまく組み合わさっている。

なかなか面白い演出だ。

 

前置きはこのへんにして、

本題に移ろう。

この映画はとても不気味だ。

ずっと得体の知れない「何か」に

追い回されているような感覚に陥る。

なにせドイツ兵の顔も、ドイツ兵の声も

一度たりとも出てこない。

これがすごい。

姿も見えない何かから銃撃される。

そして高空から爆撃機に爆撃される。

だが、相手の顔も声も表情も

全くわからない。

相手がドイツではなく、

エイリアンとか巨大な昆虫とかに

置き換えても全く違和感がない。

そのぐらい無機質で不気味だ。

具体的な敵ではなく、

抽象的な恐怖そのものに

ずっとつきまとわれる。

これは戦争映画というより、

もはやホラーとかサイコスリラーだ。

 

また、ストーリーらしいストーリーもない。

戦いを通して登場人物が成長する、

憎き敵に復讐を果たす、

失った何かを取り戻す、

そういったものがほとんどない。

とりわけ陸ステージでは、

登場人物は徹底的に無力な存在として

ただ逃げ惑い続けるだけだ。

そしてそこに対話不可能な何かが

追いかけてくる。

精神的にどんどん追い詰められていく。

 

また、面白いのは、

戦争にありがちな感情、

怒りや復讐心などがまるで描かれないところだ。

地上では、ただ恐怖と不安と焦りしかないし、

直接殺し合う空でも、

ただ淡々と機械的

敵を処理していくだけである。

 

描かれる死もストーリーがまるでない。

誰かの犠牲になって死ぬとか、

復讐を果たして力尽きるといった、

そういう意味や物語のある死が見あたらない。

ただ攻撃されて死んだり、

いつの間にか撃ち落とされていたり、

あまつさえ敵と戦うまでもなく事故死したり、

非常に無意味な死がやたら多い。

物語というより、

統計学的な死だ。

これがなかなか不気味。

 

さらに、普通戦争映画と言うと

どんな場面が描かれるだろうか。

多分、銃で撃たれて

血がドバーっと出て、

すごく痛そうな感じだと思う。

しかし、この映画は驚くべきことに

戦争映画なのに流血シーンが全く存在しない。

では、どんな風に殺されるか?

この映画は隙あらば

溺死させてくる。

沈没する駆逐艦の中で、

墜落した戦闘機の中で、

そして穴のあいた小舟の中で、

狭くて暗い空間で溺れるシーンが

やたらと多い。

あとは重油で炎上するとか。

視覚的に痛い死はないが、

苦しい死がたくさんある。

苦しんでじわじわ死ぬ。

すごく嫌だ。

もっと優しく殺してほしい。

キリングミーソフトリー。

 

あとはキャラクターの没個性さもすごい。

主人公が何者なのかは全く語られず、

しかもほとんど話さない。

ただ悲しそうな目で右往左往するだけだ。

それにそんな人物ばかりなので、

すぐに誰が誰なのだか

わからなくなる。

というか結局主人公の名前すら

出てこなかった。

いや、出てきたのかもしれないが、

全く記憶に残らない。

戦争映画でよく主人公に与えられる

超人的な能力や、

劣勢を省みない勇気、

優れた状況判断力が何もない。

名も無きただの一兵士だ。

見ていて無力感だけが募っていく。

これがすごい。

しかも苦難を乗り越えても、

敵を倒したり、勝利を収めたわけではないので

「あーあ、俺達ただ生き残っただけだよな・・・」

と卑屈になる。

 

ところで駆逐艦は英語で

デストロイヤーというのだが、

どこがデストロイヤーなのか。

ひたすらデストロイされているだけじゃないか・・・。

 

一方、空ステージでは、かなり頑張る。

イギリスが誇る戦闘機 スピットファイア

ギュイーン!ドカーン!バーン!する。

スピットファイアはイギリス人にとって、

日本における零戦みたいな戦闘機。

そりゃあカッコいいし強いのだ。

だが、敵をバッタバタとなぎ倒す

エースですら、やはり個性がない。

性格や生い立ちについても説明がないので、

一体どういう人なのかほとんどわからない。

こんなにのっぺらぼうな英雄も珍しい。

不思議な映画だ。

 

こんな感じだろうか。

こういう話を聞くと、

なんだか淡々としていて

つまんなそうだな

と思われるかもしれないが、 

だが見てみるとすごく焦るし、

見ていてまったく飽きることがない。

とはいえあくまで私の感想なので、

他にも全然違った見方がたくさんあると思う。

だが、「あーあ、見て損したな」

と感じる人はそんなに多くないはずだ。

たとえ楽しくなかったとしても

様々な考察ができるだろう。

 

皆さんも是非一度映画館へ

行ってみてはいかがだろうか?(できればIMAXで)

ちなみに私は夜に見た後、

そのままレイトショーで

もう一度見てしまった。

そして終電を逃し、

ダンケルクに取り残されたのだ・・・。