先日は海で大はしゃぎしてきた。
海へ行ったなら、今度は山へ行きたくなるところ。
だが、山へ行くのは面倒だ。
というわけで私はまた想像の中で、
山へカブトムシ取りに行ってきた。
今日はそのレポートだ。
さて、エーゲ海で漁を営んでいる私の家から山までは、
とても長い道のりだ。
私は様々な乗り物を乗り継いだ。
自転車、モノレール、大ナメクジ、バハムート、三輪車・・・。
しかし、途中で疲れてきたので、
最後はヒッチハイクをすることにした。
私は道端でぎこちない笑顔を浮かべながら、
親指を立てて車を待った。
するとしばらくしてから一台の
ピックアップトラックが、目の前に停まった。
中を覗くと、なんと先日の筋骨隆々の隻眼男ではないか!
私 「また会ったな」
男 「ああ、今日はどこまでだ?」
私 「山まで頼む。
カブトムシ取りに行こうと思っている」
すると男は一瞬驚いたような顔をしたが、
すぐに元の仏頂面に戻った。
そして低い声で話し始めた。
男 「なぁ、坊主。
悪いことは言わねぇ。
今すぐおうちに帰るんだな」
私 「いや、行くと決めたんだ。
もう迷ったりはしない」
男 「なら言うことはねぇな・・・
だが、気をつけな。
さもないとお前もこうなっちまうぜ」
男は自分の左腕を指さした。
男の左腕は機械義手だったのだ。
私はゴクリと息を飲んだ。
山に到着すると意外にのどかな光景が広がっていた。
ピクニックに来た親子の群れが、そこかしこにいる。
私は癒されながらその景色を眺めた。
しかし、目の前で走っていた子どもが、
勢い余って転んでしまった。
子どもはむくりと立ち上がり、
「ママー!」と泣きながら走っていく。
そして子どもがママの胸に飛びこもうとした瞬間、
ママの体は2つに分かれ、
巨大な口となって子どもを呑み込んだ。
ママに擬態した食人植物だ!
ママはとっくに食人植物の腹の中だったのだ。
南無三!
だが、ここは戦場だ。
子連れで来る場所じゃない。
よく見れば、ピクニック客のほとんどは食人植物だ。
それに気づいた人間の男が急いで逃げ出した。
しかし、地中から現れた巨大アリジゴクに捕まり、
体液を吸われている。
私は身震いしながら慎重にカブトムシを探した。
さて、カブトムシの餌はクヌギの樹液だ。
見ればクヌギの木には、オオムラサキやカナブン、変質者などが群がっている。
しかし、カブトムシの姿はない。
一体どこにいるのだろうか。
私は山の中をさまよい歩いた。
するとポツリポツリと落ちてきた水が頬を濡らした。
何だろう、雨かな。
私は濡れた頬を手で拭った。
だが、その手を見て驚愕した。
血だ!雨ではなく真っ赤な血だったのだ!
私は咄嗟に上を見上げた。
すると10メートルをゆうに超える巨大カブトムシが羽ばたいていた。
そして頭部の回転ドリルには、
串刺しにされた虫取りおじさんの姿があった。
この血は虫取りおじさんのものだったのだ。
カブトムシは私に気づき、猛スピードで突撃してきた。
迫る回転ドリル。
絶体絶命の危機。
だがその時、ここに来る途中でたまたま抜いてきた聖剣が、
光まばゆく輝き始めた。
そして全ての魔を祓う一閃が、
回転ドリルとカブトムシの巨体をなぎ払ったのだ。
私は無事、カブトムシを討ち取った。
こうして私のカブトムシ取りは完了したのだ。
さて、それではいよいよ、
学校の自由研究に提出する昆虫標本を作りたいところ。
しかし、標本を作るのは想像の中でも面倒だ。
私はバーチャルカブトムシを隣の家の庭に捨てた。