だいたい日刊 覇権村

実益のないことしか書かない 毎日21時更新予定

おじいちゃんに花束を

今日は知人のコンサートへ行ってきた。

知人はどうやら多くの人と共に

歌ったりするようだ。

だが、踊ったりはしないらしい。

それもそのはず。

今日の会場はちゃんとした劇場だった。

騒がしいディスコではないのだ。

そういうわけなので、

私もその場所に相応しい

格好をして行くことにした。

パリッとしたフロッグコートに、蝶ネクタイ。

紳士の嗜みである。

そう思ったのだが、気づいたら

ハッピーなアロハシャツで来てしまっていた。

きっと暑さのせいだろう。

幸い会場はドレスコードが無かったため、

すんなりと忍び込むことができた。

 

さて、コンサートが始まると、

歌う人達がぞろぞろと出てきた。

そして最後に現れたのは指揮者だ。

指揮者は、ヨボヨボのおじいちゃんだった。

そして彼は1曲目を始めようと、

手を高く掲げた。

だが、その手はぷるぷると震えていた。

大丈夫か?

もしかして寂しいのだろうか?

それもそのはず。

指揮台に立っているのは、

彼たった1人である。

他の演奏者達はみんな台の下にいる。

彼だけ仲間外れにされているのだ。

これは厳しい。

指揮者はこんな孤独の中で、

指揮をしないといけないのだ。

その悲しみは、一体いかばかりであろう。

私は陰ながら彼のことを応援した。

 

その後、演奏が一段落すると、

休憩があった。

その間、舞台にはピアノが運ばれてきた。

だが、あのおじいちゃんの姿はない。

一体どこに・・・?

結局、指揮者は姿を見せることなく、

ピアノの独奏が始まった。

そのメロディはどこか悲しげだ。

私は嫌な予感がした。

 

また、しばらくすると、

今度は女性の歌唱者達が現れた。

ドレスは皆真っ黒である。

そして教会で歌われるような

厳かな歌を歌いだした。

その瞬間、私は全てを理解した。

なんてこった!

もうあのおじいちゃんはこの世にはいない。

きっと休憩中に孤独死してしまったのだろう。

これはおじいちゃんへの鎮魂歌なのだ。

そう思うと私は深い喪失感を感じた。

その後は呆然と演奏を聞いた。

 

コンサートが終わった後、

私は知人へお祝いの花束を渡しに行った。

だが、もはやお祝いとか、

言っている場合ではなかった。

さよなら指揮者のおじいちゃん。

あのおじいちゃんのおはかに

花束をそなえてやってください。