だいたい日刊 覇権村

実益のないことしか書かない 毎日21時更新予定

佐藤さんと櫻井さん

先日、私は友人の引越を手伝った。

そこで我々は2人のプロに出会った。

引越業者の佐藤さんと、

粗大ゴミ業者の櫻井さんである。

彼らは全く逆のタイプだったが、

どちらもプロであった。

今日は彼らに焦点を当てたい。

 

まず、我々が出会ったのは佐藤さんだ。

当日、佐藤さんは、

数人の部下を引き連れてきた。

「今日はよろしくお願いしゃっす!」

彼は元気よく挨拶し、

仕事を始めた。

頼りがいのある兄貴という感じだ。

 

佐藤さんは有り余るパワーで、

どんどん物を運んでいった。

友 「あの、この冷蔵庫かなり

重いんですけど、大丈夫ですか?」

佐藤さん 「大丈夫っすよ!

おい、お前!そっち側持て!」

そう言って部下と共に軽々運んでいく。

持ちにくそうな物でも、

工夫してどんどん運んだ。

例えて言うならば、佐藤さんは

叩き上げの傭兵隊長という感じだった。

現場の経験に裏打ちされた

パワーと勘で敵を倒す。

 

その一方で、  

佐藤さん 「おい、お前はこっちを持て!」

部下 「・・・」

部下達は返事も無く、黙々と命令に従う。

 

友 「佐藤さんの陽気さに比べて、  

部下のあの人間味の無さはなんだろう。

ドローンみたい」

部隊内の戒律は厳しいのかもしれない。

 

また、友人が捨てようとしていた

巨大な回転ノコギリを見つけると、

佐 「おっ!カッコいいっすね、それ!

もらってもいいですか?!」

友 「いいですよー」

佐 「あっざす!」

そう言って嬉々として持って行った。

きっと次の戦場で大活躍だろう。

そして佐藤さんの後ろを、

相変わらず生気のない部下達は

ゾロゾロついて行った。

 

さて、引越の配送はこれで終わりだ。

次は粗大ゴミの処理である。

友人の家は一軒家だ。

それを引き払うため、

膨大な粗大ゴミが出る。

まずは粗大ゴミ業者に

見積もりに来てもらうことにした。

そして現れたのが櫻井さんだ。

櫻井さん 「どうぞ、よろしくお願います」

とても優しそうで物静かな中年男性だ。

体は痩身、というより、か細い。

筋肉、足りてますか?

これで重い物が持てるのか?

とても不安だ。

 

見積もりは、一部屋ずつ見ていった。

しかし、膨大な量にも関わらず、

櫻井さんは測ったり、メモも取らず、

すぐに次へ次へと移っていった。

本当に見ているのだろうか?

私 「あの、大丈夫ですか?」

櫻 「はい、ちょうど軽トラ2台分になりますね。

料金は9万円というところでしょうか」

私 「?!」

一体あの一瞬でなぜわかるんだ。

私 「わかるんですか?」

櫻 「はい」

櫻井さんは穏やかに答えた。

 

そして、当日、櫻井さんも

部下と共に現れた。

櫻井さんは部下に対しても敬語だった。

櫻 「それでは皆さん、片づけてしまいましょう」

部下 「「はい」」

 

佐藤さんが傭兵隊長とすると、

櫻井さんは士官学校卒の

エリート将校という感じだ。

まるで音楽を奏でるかのように

部隊を優雅に指揮していく。

そんなタイプだ。

 

さて、粗大ゴミの搬出だが、

中には巨大な机もあり、

そのままでは外には持ち出せない。

櫻 「ちょっと大きいですね。」

そう言うと彼はバールを取り出した。

櫻井さんらしくない武器だ。

そして机の足の付け根に当てると、

勢いよくベキベキベキ!っと

剥がすかに見えた。

が、そうはならなかった。

櫻井さんがバールを当てると、

ス・・・と、机の足が分離していった。

 

友 「えっ、なに今の?!」

私 「音がほとんどしなかったぞ。

一体何者なんだ・・・」

 

そして残りの3本の足も、

音もなく取り外した。

友 「とても壊すという風には思えない。

『解く』って感じだ。

必要最小限の力で、ピンポイントに

一番弱いところを突き、

解いていっている気がする」

そうか、だからまったく筋肉がいらないのか。

櫻井さんは虚弱なのではなく、

筋肉を必要としていないのだ。

 

その後も、様々な物が解かれていった。

どんな大きな物でも、櫻井さんが

触れた瞬間、音もなく原初の形へと

帰っていった。

 

友 「あれはもはや粗大ゴミ業者じゃない、聖職者だ!

粗大ゴミを、この世の苦しみから

解放していってるんだ!」

私 「今度私も解体してもらおうかな・・・」

 

皆さんも悩み事があったら是非櫻井さんへ。

きっとあらゆる苦悩から

解放してくれることだろう。