先日、私は友人の引越を手伝った。
そこで我々は2人のプロに出会った。
引越業者の佐藤さんと、
粗大ゴミ業者の櫻井さんである。
彼らは全く逆のタイプだったが、
どちらもプロであった。
今日は彼らに焦点を当てたい。
まず、我々が出会ったのは佐藤さんだ。
当日、佐藤さんは、
数人の部下を引き連れてきた。
「今日はよろしくお願いしゃっす!」
彼は元気よく挨拶し、
仕事を始めた。
頼りがいのある兄貴という感じだ。
佐藤さんは有り余るパワーで、
どんどん物を運んでいった。
友 「あの、この冷蔵庫かなり
重いんですけど、大丈夫ですか?」
佐藤さん 「大丈夫っすよ!
おい、お前!そっち側持て!」
そう言って部下と共に軽々運んでいく。
持ちにくそうな物でも、
工夫してどんどん運んだ。
例えて言うならば、佐藤さんは
叩き上げの傭兵隊長という感じだった。
現場の経験に裏打ちされた
パワーと勘で敵を倒す。
その一方で、
佐藤さん 「おい、お前はこっちを持て!」
部下 「・・・」
部下達は返事も無く、黙々と命令に従う。
友 「佐藤さんの陽気さに比べて、
部下のあの人間味の無さはなんだろう。
ドローンみたい」
部隊内の戒律は厳しいのかもしれない。
また、友人が捨てようとしていた
巨大な回転ノコギリを見つけると、
佐 「おっ!カッコいいっすね、それ!
もらってもいいですか?!」
友 「いいですよー」
佐 「あっざす!」
そう言って嬉々として持って行った。
きっと次の戦場で大活躍だろう。
そして佐藤さんの後ろを、
相変わらず生気のない部下達は
ゾロゾロついて行った。
さて、引越の配送はこれで終わりだ。
次は粗大ゴミの処理である。
友人の家は一軒家だ。
それを引き払うため、
膨大な粗大ゴミが出る。
まずは粗大ゴミ業者に
見積もりに来てもらうことにした。
そして現れたのが櫻井さんだ。
櫻井さん 「どうぞ、よろしくお願います」
とても優しそうで物静かな中年男性だ。
体は痩身、というより、か細い。
筋肉、足りてますか?
これで重い物が持てるのか?
とても不安だ。
見積もりは、一部屋ずつ見ていった。
しかし、膨大な量にも関わらず、
櫻井さんは測ったり、メモも取らず、
すぐに次へ次へと移っていった。
本当に見ているのだろうか?
私 「あの、大丈夫ですか?」
櫻 「はい、ちょうど軽トラ2台分になりますね。
料金は9万円というところでしょうか」
私 「?!」
一体あの一瞬でなぜわかるんだ。
私 「わかるんですか?」
櫻 「はい」
櫻井さんは穏やかに答えた。
そして、当日、櫻井さんも
部下と共に現れた。
櫻井さんは部下に対しても敬語だった。
櫻 「それでは皆さん、片づけてしまいましょう」
部下 「「はい」」
佐藤さんが傭兵隊長とすると、
櫻井さんは士官学校卒の
エリート将校という感じだ。
まるで音楽を奏でるかのように
部隊を優雅に指揮していく。
そんなタイプだ。
さて、粗大ゴミの搬出だが、
中には巨大な机もあり、
そのままでは外には持ち出せない。
櫻 「ちょっと大きいですね。」
そう言うと彼はバールを取り出した。
櫻井さんらしくない武器だ。
そして机の足の付け根に当てると、
勢いよくベキベキベキ!っと
剥がすかに見えた。
が、そうはならなかった。
櫻井さんがバールを当てると、
ス・・・と、机の足が分離していった。
友 「えっ、なに今の?!」
私 「音がほとんどしなかったぞ。
一体何者なんだ・・・」
そして残りの3本の足も、
音もなく取り外した。
友 「とても壊すという風には思えない。
『解く』って感じだ。
必要最小限の力で、ピンポイントに
一番弱いところを突き、
解いていっている気がする」
そうか、だからまったく筋肉がいらないのか。
櫻井さんは虚弱なのではなく、
筋肉を必要としていないのだ。
その後も、様々な物が解かれていった。
どんな大きな物でも、櫻井さんが
触れた瞬間、音もなく原初の形へと
帰っていった。
友 「あれはもはや粗大ゴミ業者じゃない、聖職者だ!
粗大ゴミを、この世の苦しみから
解放していってるんだ!」
私 「今度私も解体してもらおうかな・・・」
皆さんも悩み事があったら是非櫻井さんへ。
きっとあらゆる苦悩から
解放してくれることだろう。