とびっことは一体何だろうか？
生鮮食品売場にある
あの赤いつぶつぶのことである。
恐らく何らかの卵だろう。
卵というからには、成長して
何らかの生き物になるはずだ。
子どもの頃の私は、
とびっこは成長したら、
イクラになるものだとばかり思っていた。
色が似ているし、形もそっくりだ。
だが、成長したからといって、
とびっこ風情が
あんな大きくなれるわけもない。
それに仮に成長したにせよ、
あんなふやけた大人になるはずもなかろう。
もちろん今ではこんな
馬鹿げた考えは
持っていない。
とびっこイクラ仮説は、
数年前には取り下げた。
それにしても、とびっこの輝きは美しい。
キラキラと輝いて、透明だ。
誰だって子供の頃はこういうものである。
私もそうだったし、
あなたもそうだっただろう。
だが、人は無垢なままでは生きられない。
大人になるにつれ、社会の現実に気づき、
汚れていく運命にある。
それは人間だろうが、
とびっこだろうが変わらない。
とびっこも卵社会の荒波に揉まれ、
その数を大きく減らしながら、
やがて真っ黒に染まっていく。
長い時間が過ぎた。
彼らは大人になった。
個体数は大きく減り、
往年の純粋さはまるでない。
だが、一回り大きくなった体と、
真っ黒になった心が残った。
そして大人になった彼らのことを、
人はキャビアと呼ぶ。
色々な物は犠牲になったが、
それだけ価値ある存在となったのだ。
とびっこキャビア理論は、
私のこれまでのとびっこ研究の証である。
