宇都宮からバスで20分ほど
行ったところに、
大谷(おおや)資料館という所がある。
名前だけ聞くとかなり
しょぼそうに思える。
大谷町の郷土史と歴代村長の
来歴などがつらつらと並び、
入館2秒で睡魔が襲ってきそうな響きだ。
しかし、実際は驚くべき場所である。
これほど名前と実態が
乖離するような場所もない。
資料館の近辺に近づいただけで、
もはや並々ならぬ気配が漂う。
近くの風景はこんな感じだ。
もはや日本ではない。
いや、栃木自体、日本かどうか怪しいので、
当然といえば当然かもしれない。
この一帯は大谷石の産地で有名だ。
建物にも墓石にも幅広く使われている。
たくさん取れるので、
ここらへんのものは全て大谷石だ。
自販機も石。
トイレも石。
人間も石。
自分以外全て石。
私だけが唯一ふにゃふにゃな存在だ。
資料館の外観はこんな感じである。
しかもこれが地中深くまで続く。
資料館というより巨大地下遺跡だ。
内部は暗く、日光が
届かぬ洞窟になっている。
遮光カーテンで閉ざされた
私の寝室と同じである。
階段は地下深くへと降りていく。
気温はどんどん下がり、
一気に夏から冬と化す。
そして、突然開けた場所に出る。
この光景を見て、
「しまった!」と思った。
こういうダンジョンのモンスターは強い。
物理攻撃力・防御力が
高い奴ばかりだろう。
きっとボスは出口付近にある
巨大な石像が動き出し、
襲い掛かってくるタイプだ。
それに比べ、今のパーティー
メンバーには不安が残る。
というか私1人しかいない。
戦士系か黒魔道士系の仲間を
連れてくるべきだった。
私は装備を確認した。
防具:よれよれのシャツ
武器:ボールペン、スマホ(投擲)
これはよくない。
何か・・・他に何かないのか?
私は持ち物を総点検した。
すると、ポケットから
くしゃくしゃになった
餃子割引券が出てきた。
これで・・・許してもらえるだろうか?
モンスターだって、
モンスターである以前に宇都宮住人だ。
餃子さえあればきっと何とかなるだろう。
心に一抹の不安を抱えながら、探索に移った。
こういうところでは、
たいてい他の冒険者が
血祭りに挙げられている。
謎のBGMが流れていたが、
たぶんゲームオーバー曲だろう。
壮絶な戦いの痕。
ここで死んだ冒険者(上級)の墓。
ここで死んだ冒険者(モブ)の墓。
閉じ込められた人間が、
日数を計算するために掘った線。
モブ住人 「こんにちは、ここは大谷資料館だよ」
しばらくすると、こんな案内が見つかった。
この先は、ゲームの
メインストーリーとは別の
裏ダンジョンになっている。
ハードモードを選択した
プレイヤー用なので、
初心者にはおすすめしない。
フェンスの先を見ると、
バラバラに散らばった人骨や、
何か巨大なものが這う音がした。
さらに行くと、出口が近づいてきた。
それはボス戦が近づくことと
同義であり、恐怖で震えた。
だが、出口の前まで来ても、
ボスらしき姿は見当たらない。
最近るろうに剣心のロケを
やっていたそうなので、
たぶん剣心が倒してくれたんだと思う。
ひと安心したと思いきや、
最後に最大の難関があった。
「現実の世界に引き戻される階段」
恐ろしいトラップである。
階段の周りには多くの冒険者が倒れており、
「嫌だー!!俺は現実に戻りたくない!!」
と叫んでいる者がたくさんいた。
そうなのだ、現実こそが
最も過酷なダンジョンだ。
つらい人生に耐えられない者は、
現実へ帰れない。
そして、そのままモンスターと化すのである。
幸い、私は強い精神力を
持っているので、3時間ほど
悩んでから現実に戻ってくることができた。
私は一歩ずつ階段を上っていった。
それと同時にどんどん上昇する気温。
そして地上にあったのは、灼熱のような暑さ。
真っ白にくもる眼鏡。
やはり現実はつらいものだ。
私はそう悟った。
つづく
過去記事一覧