暑くなってきた。
清涼な飲み物が飲みたい季節だ。
そこで私はレモネードを作ることにした。
レモネードに必要なのは、
炭酸水や砂糖、
そして何より檸檬だ。
檸檬なくしては、レモネードなど
ただのネードになり果てる。
檸檬は八百屋ですぐに見つかった。
レモンイエロウの絵の具を
チューブから絞り出したような色。
丈のつまった紡錘形の恰好。
握ってみると、冷たさが掌に
伝わってくるようで快かった。
私はそのカリフォルニヤ産の檸檬を
買って帰った。
しかし、帰宅してからというもの。
私は肺尖カタルの熱で、
キッチンへ立つことすら叶わない。
気づくと私は本棚の前にいた。
試しに何冊が抜き出してみたが、
私は憂鬱になってきてしまい、
元の位置に返すことすら叶わない。
「ああ、そうだ」
私はポケットの中にあった
檸檬を思い出した。
先ほどの軽やかな昂奮が蘇る。
私はゴチャゴチャと
本を積み上げては崩し、
本を積み上げては崩しを繰り返した。
しばらくすると、それは出来上がった。
私はその山の頂にそっと檸檬を置いた。
ガチャガチャした色彩を
その紡錘形が吸収し、
カーンと冴えかえっていた。
そこで私は第二のアイデアが湧いてきた。
「出て行こうかなあ。そうだ出て行こう」
私はそのまますたすたと自宅を後にした。
今頃、檸檬爆弾が爆発している頃合いだ。
そうすれば気詰まりな自宅も
木っ葉みじんだろう。
私は満足感と共に感傷に耽った。
レモネードは作られなかった。
