自転車が壊れた。
といっても、全体が
こっぱみじんになり、
そのまま光の粒子になって
消えていった、
などという深刻なものではない。
問題はもっと部分的である。
壊れた場所はタイヤだ。
タイヤに空気を入れても、
瞬間的に抜け出て行くようになった。
私は自転車のふがいなさに
あきれ果てた。
だが、よく考えると私だって
休日にやる気を入れても、
瞬間的に抜け出て行くような人間だ。
自転車を責めることなんて
できないじゃないか。
私は深く反省した。
そういうわけで、自転車屋へ
修理に行くことになった。
だが、一抹の不安があった。
こんな困っているのだ。
きっと足元を見られるだろう。
故障部分を見る振りをして、
自転車を人質に取り、
自転車屋 「グヘヘ、こいつを
助けて欲しかったら、
10万円よこしな!」
私 「やめて!誰かー!」
みたいなことになるかもしれない。
ぼったくり自転車バーだ。
気をつけなければ。
自転車屋に着くと、
中から無愛想で職人気質な
スラリとした男性が出てきた。
こいつが私の財布から、
全財産を略奪していく男か。
私は思わず身構えた。
私が故障の症状を説明すると、
自転車屋はサッと自転車を眺めた。
自転車屋 「これはピンを換えれば
何とかなるでしょう」
そういうと数秒でピンを換え、
タイヤに空気も入れてくれた。
自転車屋 「110円です」
私 「えっ」
缶ジュース1本分?
安すぎないか?
10倍ぐらい出しても良かったんだが。
「もっと出しますよ!」
と、私は言った。
だが、男は無愛想に首を振り、
そのまま奥へと消えていった。
こいつ・・・プロだ!
そういうわけで、事態はすべて、
想定とは真逆の結果となった。
逆ぼったくり自転車バーだった。