前回の続き。
私は冬用装備をそろえ、
さらに入念な下調べも行った。
準備は万全だ。
いよいよ出発である。
交通手段は飛行機にした。
羽田から札幌までひとっ飛びだ。
発射時刻まで空港のロビーで
ぶらぶらしていると、
気になるサービスが目についた。
その名もスカイウェディング羽田。
羽田空港で結婚式が挙げられるというものだ。
これはすごい。
このサービスをうまく利用すれば、
いろんなことができる。
例えば、羽田で結婚して札幌でスピード離婚。
ハネムーン旅行から
結婚生活終了までわずか1時間。
金銭的余裕のない若者にお得なコースだ。
そうこうしている内に
飛行機搭乗時刻になった。
私は意気揚々と乗り込んだ。
だが、機内に一歩入った瞬間、
暗澹とした気分になった。
なぜなら前日は一晩中、
航空機事故について調べていたからだ。
飛行機は基本的に必ず事故を起こす。
昨日調べた飛行機達も、
事故率は100パーセントだった。
飛行機に乗って生還できるのは
至難の業なのだ。
しかし、それを知ったからといって、
どうにかなるものでもない。
この世は全て知らぬが仏。
入念な下調べが裏目に出た。
私は席に着くと、
今後起こり得ることをシミュレーションした。
まず機体が突然爆発。
次に、他の機体が突っ込んできて爆発。
そして離陸に失敗して爆発。
飛び立つまでにゆうに3回は死ねる。
だが、幸運にも離陸はうまくいった。
まさに奇跡である。
とはいえ、油断は禁物だ。
この先も無限に即死エンドが待っている。
しばらくすると、スチュワーデスが
飲み物を配り始めた。
まずいことになったぞ。
スチュワーデスが飲み物を
配りだしたら危ない。
これは死刑囚が死刑前日に
豪華な食事を出されるようなものなのだ。
ちなみに飲み物は、
りんごジュースをチョイスした。
これが人生最後のりんごジュースに
なるのかと思うと、
味わい深さが増した気がした。
その後、アナウンスで
フリーWi-Fiが使えるという知らせがあった。
これが人生最後のフリーWi-Fiに
なるのかと思うと、
通信速度が速くなった気がした。
一通りネットサーフィンをエンジョイすると、
そろそろ事故が起きそうな気がしてきた。
しまった、まだ涅槃の準備が出来ていない。
あと、気の利いた辞世の句なんかも
用意しておくべきだった。
飛行機事故なんか調べてないで、
読むべきだったのだ。
だが、またしても奇跡が起こった。
なんと北海道まで無事たどり着いたのだ。
これにはみんな驚いた。
周りの乗客達はみな辞世の句を書き終え、
来たるべきものを静かに待つのみであった。
それが突然助かったのだ。
これもみな私の日頃の行いが
良かったからだろう。
この調子なら、この先の北海道滞在も
全てうまく行くに違いない。
その時はそう思っていた。
その時は。
