帰りの電車の自動改札において、
その戦いは勃発した。
その改札は、入場するのも
出るのも両方できるタイプのものだ。
入ってくる時はフラップドアが
こちら側に開き、
出る時はあちら側へ開く。
つまり、どちらが早くSuicaを
タッチするかが、フラップドアを
どちらに開かせるかを決めるのだ。
私は自動改札へ近づいた。
すると、向こう側から
おじさんが歩いてきた。
そして、目が合った。
ハッとした。
お互い何を考えているかが、
瞬時にわかった。
2人とも歩を進める。
決戦の時は近い。
数秒後、私の勝利が明らかになった。
私の方が1歩早い。
「取った！」
私は勝ち誇った顔でSuicaを取り出した。
が、それは耳鼻科の診察券だった。
その瞬間、フラップドアが
素早く私の腹を強打した。
「グゥッ！」
私はくぐもったうなり声を上げた。
そして、その脇を
勝ち誇った顔のおじさんが、
通り過ぎていった。
負けた・・・
慢心が隙を生んだのだ。
獅子は兎を狩るにも全力を尽くすという。
次は確実に息の根を
止めるつもりで行こうと思う。
