だいたい日刊 覇権村

実益のないことしか書かない 毎日21時更新予定

きゅうりと私

今日は夕飯の際、

知人がきゅうりの味噌漬けを頼んでいた。

私はきゅうりを見ると、

なんだか色々なことを思い出してしまう。

そして心は幼い頃へと羽ばたき、

記憶の野原を駆け巡る。

今日は私ときゅうりの思い出について書こう。


きゅうりとの馴れ初めは最悪だった。

あれは幼稚園の時の話だ。

あの日は今でも覚えている。

風が唸りを上げて草木をなぎ倒し、

地上には毒の雨が降り注ぎ、

そして給食にきゅうりが出されたのだ。

私ははじめ、それが何なのかに気づかなかった。

だが、それを口に入れた瞬間、

あのグリーンデビルは暴れだし、

口の中は焦土と化した。

私は吐きそうになった。

というか吐いた。 

まるで恐怖の大王が舞い降りてきたかのような

破滅的な味だった。


私はこの惨状をゆかり先生に訴えた。

そしてきゅうりを処分することを提案した。

だが、先生は好き嫌いは許さないと言う。

この娘は何もわかっていない。

まだ、生きるということが

何なのかを知らないのだ。

きっと人生経験に乏しいのだろう。

私は子ども心に哀れに思ったのだ。

しかし、気に病む必要はない。

過ちを犯すのが人間というものだ。

私は慈悲の心を持って彼女を許し、

さり気なくきゅうりを残した。

だが、驕り高ぶるゆかり先生は

私の手をつかみ、

きゅうりを食べさせたのだ。


やめろ!私は人間だ!

鈴虫ではない。


だが、そんな心の叫びも空しく、

放課後までドキドキきゅうりパニックは続いた。


このように、きゅうりの第一印象は最悪だった。

出会いというものは、

そういうものである。


しかし、その後ドラマチックな再会が果たされ、

同じクラスになったのをきっかけに

話すようになり、

お互いの良いところに気づき、

徐々に関係を深めていった。

と行きたいところだが、

そういうことは何も無かった。

その後も2人の道は交わることはなく、

きゅうりは鈴虫に食べられたり、

お盆には割り箸を突き刺されておもちゃにされ、

私はきゅうり以外の物をおいしく食べている。

おわり。